前原孝利
前原孝利(松尾米穀店)福岡県みやま市
福岡初、「米・食味分析鑑定コンクール」総合部門金賞を獲得
福岡県南部の筑後平野の南端に位置するみやま市高田町地域。水産資源に富んだ有明海に近く、農業ではいちご・きゅうい・すもも・みかん、などの生産が盛んだ。ここ、みやま市高田町に「昔から“海の近くではうまい米が穫れない”って言われるが、そのジンクスを覆した」と笑う、米の作り手がいる。前原孝利さんだ。
2012年11月に行われた第14回米・食味分析鑑定コンクールに、福岡県みやま市の2名の生産者が受賞。その1人が前原さんで、全国の頂点ともいえる総合部門金賞を福岡県で初めて受賞した。
これまでコンクールの入賞実績は、東日本の標高の高い産地が多数入賞してきた中、昨今の高温気象で低迷している九州産のお米を日本一にした前原さんの受賞は意義深い。
わらをそのまま鋤き込む、前原流うまい米づくり農家
「美味しいお米を作るために、田んぼには地力を高める対策が必要だ」と前原さんは考えていた。そこで、地域では誰もやっていない事に挑戦する。
この地域では、二毛作を行っており、稲わらを鋤き込む場合は裏作の麦の発芽を良くするために焼却してから鋤き込む。しかし前原さんは、稲わらそして麦わらも全部田んぼにそのまま鋤き込んで、腐植し、有機肥料としたのだ。
鋤き込み方もこだわりがある。長靴では歩けないほどの15センチの深さまでロータリーでかき回し、わらと空気をたっぷりと混ぜ込む。田植えの際には、除草剤と、基肥として有機入りペースト肥料を撒く。水を張った前原さんの田んぼには色んな種類のカエルが引っ越してくる。水質の良い田んぼにしか発生しないホウネンエビを狙っているのだ。稲が丈夫で、害虫を食べてくれるカエルが増えるので、防除も施肥も田植えの際の1回だけ。
「みやまのお米」の未来を担う
農家みやま市で行われた「みやまのお米!!第1回食味鑑定コンクール」でも前原さんは金賞を受賞。みやま市ではお米の消費拡大やブランド化を進める動きが活発化している。
去年の6月、雨が続いて麦わらを焼けず困っていた周囲の農家の半数が、前原さんに尋ねて、初めて麦わらの焼却を止めてそのまま鋤き込んだという。これまでの農法は簡単には変えられないが、「美味しいお米を作りたい」気持ちは同じ。みやま市は、地域をあげて美味しいお米の生産地として、成長していこうとしている。
「稲わらの土づくりには時間がかかる」という前原さん。誰もやってこなかった事を、美味しいお米を作りたい一心で、ひたむきにやってきた。そのパイオニア精神の宿るお米は、地域の期待と共に、これからも進化し続ける。