お子さんのいるご家庭では、子育ての悩み、とりわけ食事に関するお悩みはつきものですよね。
日々忙しいなかで、食事の準備に片付け、本当にお疲れ様です。
子どもの食事、これでいいのかな…となんとなくモヤモヤ、葛藤されている方も多いのではないでしょうか。
完璧は無理!理想通りいかなくていいと思います。それでも、知識を持っていることはとっても大切だと思いますので、肩の荷を下ろしつつ、リラックスして読んでみてくださいね。
目次
子どもの「おいしい!」を考える
お子さんが、「おいしい!」「食べたい!」と言うものは、どんなものでしょうか?
手をかけて作った手作りのおかずより、外食で食べるものや冷凍食品、ファストフードやお惣菜のほうが食いつきも反応も良くて、がっくり…。
そんな経験はないでしょうか。
私も管理栄養士という職業柄、家での食事には気を使っているほうだと思いますが、そんな我が家でも例外なく、「トホホ」と思う場面は多いものです。
子どもの味覚が危ない、などと言われることもある現代の食生活ですが、味覚の発達や好き嫌いに繋がる嗜好について、掘り下げていきたいと思います。
味覚と嗜好、第6の味覚「脂肪味」とは
味覚には、「甘味」、「酸味」、「塩味」、「苦味」、「うま味」の5つの基本味があります。そしてそれらを、舌にある「味蕾(みらい)」というセンサーのような器官を通じて感じ取っています。
そもそも、人間の「味覚」はなぜ備わっているのでしょうか。理由は大きく2つあります。
①生きていく上で重要な栄養素を感知して取り入れるため
生きていくために重要な栄養素として、エネルギー源となる「炭水化物」「たんぱく質」「脂質」の三大栄養素に、体の調子を整える「ビタミン」「ミネラル」を加えた五大栄養素が当てはまります。
炭水化物は「甘味」、たんぱく質は「うま味」、ミネラルは「塩味」として、それらを好むようにできています。
②有害なもの、危険なものを避けるため
危険回避のため、腐敗は「酸味」、毒は「苦味」をサインとして、これらを避けられるようにできているといわれています。
また、最近の研究では、5つの基本味に加えて、第6の基本味(第6の味覚)として、「脂肪味」があるということが分かってきています。
脂質はエネルギー源であるだけでなく、細胞膜やホルモンの構成成分としてもはたらきます。脳の約60%は脂質でできているなど、人間にとって脂質は不可欠な栄養素ですので、「脂肪味」を感じる神経が発見されたというのも、理にかなっていますよね。
ですので、子どもたちが本能的に、甘いものを好んだり、脂っこいもの、味の濃いものを欲するのも頷けます。
ただ、食べ物を手に入れるのが難しい時代であれば、本能に従って、生き延びるための選択をする必要がありましたが、飽食の時代に好き放題食べていれば、さまざまな問題が起こってきます
新型栄養失調
「新型栄養失調」という言葉を聞いたことはありますか?
偏った食生活により、摂取カロリーは足りているのに、必要な栄養素を取りきれていないため、さまざまな不調に繋がるというものです。
正しい知識を身に着け、バランスよく食べる、という力を育むことはとても大切で、そのためにも偏食や好き嫌いはできるだけ減らしたいものですよね。
味覚を育てていくことは、未来の健康にも繋がります。
味覚の発達
舌には味を感じ取るセンサーのような「味蕾(みらい)」という器官があります。
その味蕾から得た味覚の情報が、鼓索神経と舌咽神経を経て、大脳の味覚を感じる領域に伝わります。
大脳皮質が急速に発達する3歳ごろが、味覚の発達のピークとも言われています。
赤ちゃんは、母乳やミルクしか飲んでいない乳児期から、離乳食を皮切りに、様々な味に出会うことになります。離乳食を食べてくれないという悩みは多いですが、味覚の鋭い赤ちゃんにとって、甘いミルクから急にほかの味が口に入れば、驚くのも当然のように思います。
人は、日々の食の体験によって経験を重ね、酸味や苦味も少しづつ受け入れ、食べ物の嗜好を徐々に形成していきます。
また、単なる味だけでなく、見た目、舌触りや食感、温度、香り、そしてその場の雰囲気や感情などが複雑に関係し、五感をフルに使って味わっています。
何をいつどのように食べたかを識別し、判断能力が充実してくる6歳ごろまでの食体験が、その後に大きく影響を及ぼすともいわれています。6歳ごろまでが重要とはいえ、何歳からでも食習慣は変えていくことができますし、子どもの適応力は素晴らしいので、気づいた時から始めれば良いと思います。
具体的には、
・さまざまな素材の味に触れさせる…素材そのものの味を感じ取れるよう、味の濃い調味料などはできるだけ避けましょう。いろんな素材が一つに合わさり、味に変化の出にくいチャーハンやカレーのような料理ばかりにならないよう、工夫してみると良いですね。蒸し野菜などシンプルな調理でOKです。
・繰り返し食べる(食卓に出す)ことで慣れと安心を与える…警戒して食べようとしない食わず嫌いもよくありますが、無理強いは禁物。大人や兄弟など周りの人が食べている姿を見せ、気が向いたときに少しでもチャレンジできれば十分です。
お子さんの場合は、一時期食べなかったものを急に食べ始めたり、逆に好きだったものを食べなくなることもありますが、気にしすぎず食卓にはいろいろなものを登場させましょう。
・薄味に慣れさせる…濃い味のものや、添加物などで旨味を加えられたもの、甘味の強いものなどを日常的に食べていると、その強い刺激に慣れてしまい、繊細な味が感じられなくなってしまいます。
薄味に変えると最初はもの足りなくても、味蕾は10~12日程のサイクルで生まれ変わっているので、次第に感じ方に変化が出てきます。
・亜鉛不足に注意する…亜鉛は味蕾の細胞に不可欠なミネラルで、人間自ら作り出すことはできないので、食事で摂取する必要があります。牡蠣、レバー、煮干し、さば、いわし、しらす、牛赤身肉、パルメザンチーズ、大豆製品(納豆やきなこ)、小麦胚芽、米ぬか(玄米)、ココア、抹茶などにも豊富に含まれています。
・食品添加物を控える…添加物として加えられている乳化剤、結着剤、酸化防止剤、増粘剤、ゲル化剤などの成分の一部は、亜鉛をはじめとするミネラルの吸収を阻害します。亜鉛不足は味覚障害にもつながりますので、食品添加物の多い食品ばかりの食生活になっていないか見なおしましょう。
参考:日本小児看護学会誌 32 66-75, 2023. 笹木忍 国内における子どもの味覚およびその評価に関する文献研究https://www.jstage.jst.go.jp/article/jschn/32/0/32_32_66/_pdf/-char/ja
参考:文部科学省 食品成分データベース 亜鉛https://fooddb.mext.go.jp/ranking/ranking.html
参考:微量栄養素研究 2021 年 38 巻 p. 85-90橋本 彩子, 神戸 大朋 消化管での亜鉛吸収機構に着目した亜鉛栄養の改善https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtnrs/38/0/38_85/_pdf/-char/ja
見落とされがちな嗅覚の重要性
おいしさを感じる要素は味覚だけではなく、なかでも食材の香りを感じる「嗅覚」は非常に重要です。
風邪をひいて鼻が詰まると、味がよくわからなくなりますよね。また、チョコレートなどを鼻をつまんで口に入れると、甘いことはわかっても、チョコレートが持つおいしさは感じられません。そのあと手を放すと、一気に味の感じ方の変化を実感できます。ぜひ実験してみてください。
嗅覚については、匂いをきっかけに、昔の記憶を思い出す「プルースト効果」というものがありますが、これは食べ物の記憶についても当てはまるそうです。
苦手な食材は、口に入れずとも匂いだけでダメ、という方も多いのではないでしょうか。
匂いの学習は、お腹の中にいる赤ちゃんの頃から始まるそうです。羊水の中で香りを感知し、産まれた後も羊水から学習した経験のある香りの食材を好みやすいといった研究結果もあるようです。
香りは調理の途中にも漂います。下ごしらえするときの野菜の香り、茹でるときの香り、だしを取るときの香り…。
慣れ親しんでいる香りを好むようになると考えると、幼い頃から様々な香りを記憶に刷り込んでいけたらいいですよね。
子どもに伝えたい「だし」
日本では、だしをよく使います。
日本料理は、海外の料理と比べて油脂が少なく、その点も和食が健康的であると世界から注目されている理由のひとつです。
脂質が悪というわけではありませんが、質の悪い油や糖質の多過ぎる食事は、生活習慣病などの原因にもなります。上手にだしを使うことで、油脂や糖分をたくさん加えなくても満足できるおいしさを生み出します。
最近ではフランス料理などでも、油脂を減らして、その分ハーブやだしのようなものを使って香りを補うような料理の構成をしているお店が増えているそうです。
日本の代表的なだしに「かつお昆布だし」がありますが、これは異なる種類のうま味成分をかけあわせると、旨味をより強く感じるという相乗効果を利用したものです。
かつお節にはイノシン酸、昆布にはグルタミン酸が含まれており、一緒にだしをとることは理にかなっています。
顆粒だしを使うという家庭も多いと思いますが、日本のだしは意外と簡単に取れるものです。
昆布、かつお節、干ししいたけ、煮干し…などだしの素材はたくさんありますが、それぞれのだしの香り、味、色、それぞれが合わさったときの変化、野菜などにかけると素材の味の感じ方がどう変わるかなど、ぜひお子さんと一緒に実験してみてください。
子どもの頃から、だしの繊細な味を好む舌を育てておきたいですね。
参考文献:「だしの研究 だしの仕組みを理解して、自在に使いこなすための、調理とサイエンス」 柴田書店 2020年 p190-197
好き嫌いが多いのは現代社会のせい?!
現代では、核家族化が進み、大人数で食卓を囲むことが少なくなってきたことで、新たな食材や味付けに触れ、嗜好の幅を広げる機会が減っています。
昔であれば、おばあちゃんとお母さんが一緒に何時間もかけて食事の準備をしている姿を間近で見て、調理する音、香りなどを感じながら、自分も手伝ったりして、こんな風に時間と手間暇がかかるんだなあ…ということも肌で感じられていたと思います。
しかし今では、すぐに食べられる出来合いのものが安価に手に入ります。自宅で調理する場合もそれだけで味の決まる調味料や時短キットなども豊富で、食に対するありがたみという意味では薄れてきているように感じます。
コンビニやファストフードで子どもだけでも気軽に食事ができるようになり、食の選択自体を子ども自ら行うことも増え、素材を生かした繊細な味付けのものを口にできる機会自体も減っています。
新しいものや苦手なものを食べなくても、他のものが簡単に手に入ってお腹を満たせるのです。
そういった心情的なところも、好き嫌いを助長しているのかもしれません。
しかし、子育ては本当に忙しく、ましてや核家族で、頼れる人が周りにいない育児の現場は過酷です。
いまの親が手を抜いているわけでは決してなく、皆さん本当に目一杯頑張られていると思います。
時代は変わっていきますし、食事の準備に使える時間は限られていますので、便利なものは積極的に取り入れるべきだと思います。
ただ、食に関する知識、そしてより良くしたいという意識を持っておくかどうかで、食品を見極める目や、日々の選択が少しずつ変わると思うのです。
食への投資は未来への投資。親にしかできない子どもへのギフト
子どもにとって、勉強やスポーツ、習い事などは、外に出ていき、色んな出会いを通して様々な経験を重ねていくことができると思います。
しかし食について考えると、給食を除いて、大きくなるまでは家庭の方針や嗜好に影響のほとんどを受けていくと思います。
当然ながら子どもの身体は食べたもので作られ、味覚や嗜好も、食べたもので決まっていきます。親の食に対する考え方が影響していくと思うと、少しドキッとします。
素材にこだわりがあれば、例えばお米でも、品種による微妙な味や香りの違いを感じて家族で表現しあうような時間がうまれます。どこで誰がどんな風に作ったものなのか、ストーリーがわかる食材を選ぶことは安心安全にもつながります。
何より食を楽しむ姿勢や、探求心を育てることは、子どもの生涯の豊かな食生活に繋がる、親にしかできない価値あるギフトではないかと思います。
最近ではネットショッピングが気軽にできるようになり、選択の幅も広がっています。
良い素材を選び、一緒に楽しむことは、身体にとっても、心にとっても有意義な投資ではないでしょうか。
おすすめのお米
渡部洋巳さんの
山形県高畠町産つや姫(特別栽培米)
ツヤツヤとした輝く見た目、炊き上がりの白さは際立ち、もっちり感や甘味も良いお米です。冷めても美味しく、お弁当やおにぎりにも最適です。「米・食味分析鑑定コンクール」で総合部門・金賞を受賞している農家が育んだ逸品。
青木さんの山形県南陽市産
ミルキークイーン(特別栽培米)
ミルキークイーンはもちもちとした食感で粘りが強く、冷めても美味しいお米です。水加減を通常より1割程度少なくして炊くと、その粘り・弾力・ツヤなどが特に際立ちます。ねっとりとした粘りが濃密で噛むほどに徐々に甘さが増していきます。
曽我康弘(まん丸屋)さんの岐阜県下呂市産銀の朏(いのちの壱・特別栽培米)
大粒で見た目にもインパクトのあるお米です。コシヒカリの約1.5倍もある大きい米粒が特徴。頬張った瞬間、これまでにない食感が味わえるお米です。